長曽我部元親


長元物語(抜粋) その1
(カッコ内はあきらかな誤記の訂正、読みを記す)

伊豫十一郡へ元親公弓箭(や)御取出の事

一、東伊豫、新居・宇麻(摩)の郡は、大分、石川と云ふ侍の知行。この石川土佐へ降参
す。これによりこの両郡の小侍、何れも人質を出し、元親公御手に入るなり。

一、中伊豫、河野屋形数代。大身に御座(おはす)故、国中に手をさす侍もなく、数年豊
饒(ぶぜう)なれば、その比(ころ)屋形の家中、弓矢の唱(となへ)薄く罷りなる。こ
の由、久武内蔵佐(助)以下の長臣諫め申上げる。追付(おっつけ)御取掛りあれしかと
申す時、元親公の仰せには、河野は中国(の)元就の聟なり。又来島はこれも元就の縁者
と聞く。率爾に取懸れば、中国より加勢せば大事なり、との御分別なり。よって河野殿分
領へは少しも手を指し申さざる様にと、御家中へ仰せ聞かせらるるなり。扨予州の国人御
攻めよせの後、右両家もいつとなく、土佐へ人質出し御存分になるなり。

一、西伊豫、宇和郡・喜多郡の国侍の知行、何れも山分けなれば、城も懸り口、手明の山
を拵へ、里々も切り所のみなり。扨知行持ちの人々には、西園寺・宇都宮・御荘・川(河)
原淵・北ノ川、この五人は往古より大身、その外大野・曽根・床崎(五十崎)・魚成・萩
ノ森・多田・山田・熊崎・法華津・板島・津島・中野・深田・土居・河原淵一覚一類、大
津菅田直之、以上二十一人なり。


一、右の衆城数、大津・白木・多田・同里城・南方・山田・熊崎・法華津・板島・岩井ノ
森・同里城・緑城・猿越・新城・岡本・土居・金山・深田・高森・西ノ川・大森・薄木・
竹森・河籠森・黒瀬・甲ノ森・三滝・黄幡・猿ケ滝・宗川以上三十なり。この城の所在々々
、土佐より打続き働く故、大方降参するものあり。又責(攻)落ち平乗(定)に乗るもあ
り。明けて退くもあり。その事奥に記すなり。

一、伊豫宇和郡より、土佐の内奥屋内の城、目黒の城へも取懸る。土佐の浦々へは中伊豫
来島のけいごの兵船来り、女童を取り、浦兵の家を焼亡せしむる事。

一、同国の内、宇和・喜多両郡は、土佐境の山分なり。此所の侍は、下々迄も鹿・鳥を打
つ事所作にて、鉄砲上手なり。土佐より働く時、物頭大将衆、毎度鉄砲にて討れけり。こ
の故に敵勝に乗る。四国大形(方)御手に入りても、此所は降参せず。手明の山城なれば、
手柄責(攻)にもならざる所なり。

一、この両郡、か様に六(むつ)かしき所なる故、この在々村々下人、草臥(くたびれ)
申す様にと、毎年極月(しはす)廿七日土佐の幡多郡より陳(陣)立して、正月元日より
五日迄、敵の城を二カ所三カ所計(ばかり)をしからみ(押し絡み)、鉄砲合戦して、下々
には麦作をなぎ捨てさせ帰陳(陣)。又在々放火。三月半麦なぎ陳(陣)。卯月始めには
苗代返し帰陳(陣)。扨て又植田をくつがへす。秋になり(れ)ばかり田に陳(陣)し、
侍分は城をからみ、矢軍(いくさ)して、下々人足には稲をからせ、廿日計も滞留かくの
如し。年々働く故、敵の民皆迷惑いたし、連々城侍衆降参す。次第不同これある事。

一、宇和郡の内、河原淵殿領分。河籠ノ森へ節々に働き、川(河)原淵殿・同一覚一類土
佐へ降参あるに付て、この領分五カ所、河籠ノ森・大森・西ノ川・竹ノ森・薄木なり。右
の通り人質を出し、元親公御存分になる。

長元物語 その2へ続く

【長元物語】
長元物語=長元記ともいい、長宗我部元親の家臣立石正賀の著したものである。
立石氏は幡多郡下ノ加江(現・土佐清水市下ノ加江)を根拠とし、はじめ一条氏に使えた
が、後長宗我部の家臣となった。正賀は、元親の伊豫攻撃に際し、久武内蔵助の軍に属し
て従軍。三滝の城主北之川左衛門大夫(ママ)を倒した武勲が伝えられており、『豊臣武
鑑』には千石の領地高が見えている。関ヶ原の合戦後、横山新兵衛とともに盛親の使者と
なって活躍するが、浦戸城の接収にも尽力した。のち、肥後の細川家に仕え、千五百石を
給せられたという。

本書は前編(乾)、後編(坤)分かれた、本人の覚え書きで、要点を簡潔に指摘してある
ので、読みのもとしてよりも、資料的な価値が高いと評価されている。
特に自らの武功を匿名として書いてあるのも興味が深い。その点も他の『◎◎記』などに
比べて、史的価値を高めているのであろう。ただ、覚え書きであるために、読みにくく、
理解が困難な箇所もあることは指摘されている。

 宮内庁書陵部・内閣文庫・静嘉堂文庫・東大資料編纂所・高知県立図書館に写本を蔵し、
土佐国群書類従にも収録されている。宮内庁書陵部蔵本の続群書類従本には『立石正賀記
之』と書かれた後、巻末に『土佐国前代守護の事』『元親公言行』と書き加えられている。
万治2年(1659)に書かれたと、土佐群書類従所収本には記入されている。

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