吉田藩の成立

 明暦3年(1657)7月、宇和島初代藩主伊達秀宗は隠居して、三男宗利が家督を継いだ。その際伊達家所領の10万石のうち3万石を、宗利の弟宗純に分知した。所領は宇和島藩の中でも、特に豊饒、豊漁の村々が多かった。宗純はその中から、戦国武将土居氏の古城のあった石城の麓を選び、そこに陣屋をつくり、ここに吉田藩が誕生した。

 しかし、これは決してすんなりと行われた訳ではなかった。その裏には、あの、仙台伊達騒動で有名な、伊達兵部宗勝の姿が見える。

 宗純は秀宗の愛妾吉井の息子として五男に生まれた(書物によっては四男と書かれているものがある。現在正確には調べていません)。秀宗は吉井に溺愛し、宗純を擁立する側がそれを利用して、宗純の大名擁立運動を起こし始めた。

 秀宗は参勤交代で江戸滞在中に中風になり、半身不随、言語朦朧となっていた。秀宗は多くの子供に恵まれていたが、長男宗美は33歳で、二男宗時も39歳で他界した。宗時は命の長くないことを悟ったとき、彦根藩主井伊直孝(秀宗夫人の兄)を呼び、同席の上で、弟宗利、宗純を枕元に呼びよせ、直孝に向い
 「親秀宗は数年来中風症となり、自分も病気で残念である。自分亡き後は宗利を後継とし、諸事御指図の上、奉公させて頂くように」
と言い残した。
 そこで直孝は、江戸の仙台藩藩邸で、伊達兵部宗勝と会合して、宗純の処遇について話し合った。協議の結果、
「数千国乃至7〜8千石、それも、当分は三千石として家来を付けること」
となった。
 宗利はその決定に従って、三千石と家来に宮崎八郎兵衛他を付け、宗純を部屋住みとした。
 この頃は、まだ、秀宗存命中であったが、次第に宮崎八郎兵衛は宗純を大名にさせたくなる野望に抱かれた。
 最初は、分知の件を直接宗利に交渉したが断られ、秀宗への願いも通らず、直孝にも断られた。そこでついに、仙台藩伊達兵部に相談することにした。

 兵部はどのような意図があったのか、相談に応じ、井伊直孝を屋敷に訪ねて
 「実は、宗純は、父秀宗から自筆自判で三万石分知の遺言状をもらっている」
と虚言を述べた。

 直孝はこれに驚き、早速宇和島に在藩中の宗利に飛脚を遣った。明暦3年(1657)2月、宗利は江戸の赴き、直ちに直孝に会い、
 「宗純が兵部殿と心をあわせて、何事か企んで居ることは国元で承知していたが、遺言状云々は全く初耳である」
 「父秀宗は病気のために、自分で自筆の遺言状を書けるはずはない、私も分知するつもりはない」
とこたえた。これに関しては宗利書翰「仙台伊達家文書」に残っている。

 宗利は遺言状は偽物に間違いないと確信し、仙台二代藩主伊達忠宗に働きかけをして、お家騒動にもなりかねない状態になった。

 ここで直孝は伊達兵部からの書状を見せた上、
「宇和島にお家騒動が起きては、幕府からの干渉も考えられるし、表沙汰になれば伊達一門の恥にもなる。この際思い切って三万石を遣わすか」
と伝え、遺言状偽物に違いないと思いながらも、分知を認める事になる。

 こういう諍いがあるために、以後、吉田藩と宇和島藩は兄弟で、隣藩ながらも不仲の間柄になり、領地争いなどのもめ事が起きた。

 吉田藩は、当時全国的にも有数の漁場であった宇和海沿岸を領地に持ち、また穀倉地帯も手に入れるが、決して有能な藩主・家臣に恵まれた環境では無かったようで、以後明治に至るまでに多くの農民一揆が多発する。とりわけ、御用商人と役人の腐敗した関係が顕著でに見られた。領主は必ずしも有能な人は少なかったのでは無かろうか。ことに、忠臣蔵で有名な事件の際は、浅野内匠頭と並んで勅使饗応の同役を受けたのが吉田藩主伊達左京亮宗春(後に村豊)である。ご馳走役に任命されたために接待に関しての作法等を考慮して。高家筆頭の吉良上野介に賄賂を送ったために、結果として、日本人の大好きなドラマ「忠臣蔵」の材料を提供することとなった。

 慶応末には、世の中が勤王・佐幕に別れている頃にも、吉田藩は優柔不断に態度を決めかね、兄弟藩である宇和島伊達家を心配させた。

 しかし藩の態度はそうであっても、住民の多くは、現在の宇和島住民に比べ、おっとりとして、人情味のあふれた人が多い。

 また、有名な仙台伊達家のお家騒動の折りにはその後土佐藩預かりとなった伊達兵部の嫡子宗興の妻子四人はは吉田藩預かりとなり、二百人扶持の待遇を受け、手厚く処遇された事は、吉田藩の伊達兵部に対しての恩義の深さを物語っている。
 妻子は一度仙台藩の石川民部預かりとなるが、再び吉田に戻り、そこで生涯を終えた。吉田の町と住民の心が人生を送るのにふさわしい町だと思ったのであろうか。

 ちなみに四人の墓と家臣二人の墓は、吉田藩伊達家の菩提寺である吉田町・大乗寺の墓地にひっそりとたたずんでいる。


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