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姜��（かんはん）

　韓国の儒学者(１５６７〜１６１８）

　豊臣秀吉の朝鮮侵略のおり、大津（現大洲）藩主藤堂高虎の軍に捕らえられた、朝鮮の儒学者。伊予の大津（大洲）、京都の伏見に幽閉され、その間の生活を記録に書き記し、三年後帰国した姜��は「看羊録」と名付けた記録を刊行した。「看羊録」は多少記憶に思い違いなどがあるもものの、いわゆる武勇伝などの軍記物と異なり、史実を正確に表した当時の貴重な資料と言えよう。

　前後は省略し、宇和島に関した部分を紹介する。姜��の全容については、参考にさせて頂いた、大洲市の村上恒夫氏の著書「姜��−儒教を伝えた虜囚の足跡」（明石書店刊）を読むことを勧める。

　大津城（大洲）に幽閉された姜��は金山出石寺の住職と交流を深め、次第にかたくなな心を開いていたが、望郷の念にかられていた。慶長３年（１５９８）４月末、京都から同じようにとらわれていた、一人の朝鮮人が大洲に逃げてきた。５月２５日夜、姜��はその人物ともう一人の三人で南に脱走した。脱走経路については省く。

　宇和島に着いた姜��は夜陰に紛れ、当時工事中であった板島城城門に

「汝日本君臣……中略……心せよ。我に二言なし。汝後悔することなかれ」

と日本に対する批判文を書いた。逃亡の身ながら大胆な行為であった。

　その後、薬師谷渓谷と思われる場所に逃れ、修行中の僧に出会う。姜��たちが朝鮮に帰りたいと言う事情を告げると、僧は快く承諾し船を出して、大分県まで送ってくれるという事になった。
　しかし渓谷を出たところで、検索中の板島藩の武士にとらわれ、引き回され、即刻打ち首になろうとした。城門に秀吉・高虎を罵倒する文を書いたのだから、当時の板島城内では大騒ぎのことで、逮捕され打ち首になることは当然のことだった。
　姜��たちは命運付き、刑場の屍になる事を、覚悟していた。

　しかし姜��の人生はまさに、奇跡のドラマである。
「今にも斬殺されんとしたところへ、或る一人の倭人が剣を抜いてこれを阻止し……」

ということで姜��は一命を取り留めた。

　姜��の脱走は大津藩にとっては一大事であった。姜��は虜囚ながらも優れた学者であり、特別な存在であった。脱走が発覚してから、八方に手を尽くす中で、板島藩内に現れた、という情報は、すでに大津にも聞こえていたのだろう。その姜��が死罪になっては、大津藩の面目がつぶれる。大切な預かった人物を死なす訳にはいかない、ということで大津藩士は処刑阻止のため、矢無を得ず抜刀して自らの命に替えて姜��を守ろうとした。

　刀をかざして飛び込んだのが、大津藩士であることが判り、色めき立った板島藩士も、事の成り行きを聞き、納得したのであろうか、すんなりと大津藩士に姜��を引き渡したという。

　まさに紙一重で姜��の命は救われた。奇しくも朝鮮で姜��を捕らえた藤堂新七郎は、当時板島にいた。大津から迎えが来るまで、姜��は藤堂の屋敷に招かれて酒食のもてなしを受けることになった。ここで姜��は諭されたのか、以後脱走を試みることなく、京都伏見に身柄を送られるまで、大津で生活をする。姜��と同行した他の朝鮮人、帰国に協力しようとした薬師谷の僧のその後については不明であるが、姜��への対応を考えれば、寛大な処置が為されたものと思われる。

　伏見に移されてからの姜��は、藤原惺窩、赤松広通などと交流し、儒教を教えるとともに、日本の文化に付いても勉強を始めた。姜��の学識の偉大さを知った藤原惺窩は、赤松広通の助けを得ながら、「四書五経」【四書＝大学・中庸・論語・孟子、五経＝易経・詩経・書経・春秋・礼記（らいき）】の和訳を始め、慶長４年（１５９９）２月１５日に遂に完成をみる。このとき惺窩は感動にふるえながら「日本、宗儒の義を唱ふる者、この書をもって原本とせよ」と書いた。
　慶長５年（１６００）４月２日先述した姜��理解者たちの援助もあり、彼は公に伏見を去り、故国目指して旅立った。

◎藤原惺窩＝ふじわらせいか（１５６１〜１６１９）
江戸初期の儒学者。名は粛。播磨の人。五山学僧から儒者に転じ、徳川家康から招かれて書を講じた。彼の思想はまだ仏儒、神儒あるいは朱子学と陽明学との調和さえも考える段階にあったが。儒学を五山禅僧の手から解放したところにその功績がある。林羅山など優れた門人を生み、近世儒林の祖と仰がれた。【この項小葉田淳監修・日本史小辞典】

◎赤松広通＝あかまつひろみち（１５６２〜１６００）
戦国武将の一人、播州竜野城主、�m馬武田城主、戦国武将の中では珍しく学問を好んでいた武将であったという。

付録・私は数年前、千葉の幕張メッセで開かれた国際園芸技術展に、某園芸会社の社員として１週間出向していた。ある日韓国から見学に来た人が私たちのブースを訪れた。日本語・英語は全く駄目。でも身振り手振りで話していたら、全羅南道から来た農業公社の人だと言うことが理解できた。愛媛県の某会社の場所を教えたら、突然彼の口から「大洲」という言葉が出てきた。その次にでた言葉が「姜��先生」であった。
　時空を越えて偉大な儒学者が、今なお韓国の人の中に生き続けて居ることを改めて感じた。

※お断り・表現に朝鮮人という記述がありますが、あくまでも当時朝鮮半島にすんでいた人、という意味で、差別的な意味ではないことをご理解下さい。

【参考・村上恒夫著「姜��−儒教を伝えた虜囚の足跡」】

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