上甲正典と宇和島東高野球部・栄光の伝説

平成10年(1998) 夏 7月31日

今治西との死闘

第二シード

2回戦 9−0 八幡浜工 7回コールド
3回戦 9−0 弓 削 7回コールド
準々決勝 7−0 津 島 7回コールド
準決勝 4−3 丹 原

プロジェクトXの気分で

 この春の選抜出場投手今治西・福井対宇和島東・近平。両校エースががっぷり四つ
に組んだ真っ向勝負の2時間51分。最後は、打線が土壇場で反発力を見せた宇和
島東に軍配が上がった。それにしても、追いつめられたなかで、何度も離れるゲーム
の流れをたぐり寄せ、逆転勝ちに結びつけた宇和島東ナインの粘り腰には、
ただ感服するしかなかった。

試合前のミーティングで上甲は選手たちに言った。
「今日は総力戦だ!」報道関係者に対してはさらに
「人事を尽くして天命を待つ」と言った。
その予想通り、試合は息を飲む展開となった。
互いに何度も好機を逃しながら、一点差の九回裏、東は同点に持ち込んだ。

 ヤマ場は何度も訪れた。その最大の場面は、やはり延長十二回の攻防だった。
この回、エース近平は味方のエラーがきっかけになった二死二塁で、今治西・
柳瀬の適時打を浴び、勝ち越し点を奪われた。打たれた近平はマウンドにうずく
まり、そしてマウンドを降りた。後は成見に頼るしかなかった。成見は押さえた。
 その裏、奇跡はおきた。ナインは何度もピンチをしのいできたエースの姿を目に
焼き付けていた。打順は一番宮崎からだ。上甲監督は上位の各打者に声をかけた。

「これまでチームを引っ張ってきたのだから何とかできる」。

 打席に立った宮崎は考えた。彼は前の打席でスライダーをねらって同点となる
適時二塁打を打っている。「今度は直球だ」。ボールカウント0−2から狙った
とおりの球が来た。宮崎はためらわず打ち返した。右越え三塁打。ベンチは
沸き上がった。ノーアウト三塁になった。続く成見が一塁線を抜いて同点に
なった。そして渡部の決勝打が延長十二回の試合に終止符を打った。

 そんな打線の奮起を呼んだのは、近平の力投であった。前年秋の県大会決勝、
春の四国大会県代表決定戦でいずれも今治西に敗れていた。ただ敗戦のこ
とは頭になかった。「打たれてもいい。とにかく一人ずつ集中して投げる
ことだ」
。外角のスライダーを勝負どころで有効につかった。四死球は4。
このうち2つの死球は攻めの投球で与えたものだった。
「必ず逆転してくれる」バックがミスをしても歯を食いしばって投げ続けた。
”女房役”の捕手丸石「これまでで最高のピッチングだった」太鼓判を押した。
 試合後、上甲監督は言った「春以降、勝負へのこだわりが欠けていた」
そして6月の上旬問題が起きた。三年生の脱走事件であった。
「あれ以来チームの何かが変わった」上甲は言った。
野球をやるからには、優勝を目指す。そんな一体感が大一番での粘りに表れた。
 いよいよ6度目の夏の甲子園に臨む。
「甲子園で勝つことの難しさを痛感している」上甲はつぶやいた。

【エピソード】
 延長12回表、2アウトランナー一、二塁。これ以上今治西に追加点は与
えられない。2アウトながらも3−3の均衡を破られ、3−4と勝ち越され
てしまった。せめて最小点差の一点で押さえたい。このランナーがホームに
帰れば勝利は遠のく。エース近平はすでにマウンドを降りている。長身の近平
とは対照的な小柄な右サイドスローの成見が投げている。
 この試合で遊撃手の越智は失点に繋がる三つのエラーをしていた。
(自分のエラーさえなければ………)。チームに迷惑をかけてしまった、
という重圧を背負っていた。小柄な越智の身体の中には、守備の要となる
べき自分の冒したエラーに対する自責の念が渦巻いていた。
 最後の打者となるはずのバッターが打った打球は、皮肉にもその越智
の目の前に転がってきた。越智は緊張した。こわばる身体をふりほどくように、
正面でしっかりと捕球した。ふらつく身体にむちを打ち二塁ベースを自
ら踏んだ。塁審の右手が高々と上がった。スリーアウトだ、彼はそれまでの
張りつめた気持ちが体中から抜けていくのを感じた。
越智の小柄な身体はグランドに崩れ落ちた。
 二塁手の成見が越智を支えながらベンチにもどった。
 この前にも、極度の緊張から、越智は意識を失いそうになっていた。
越智は二塁手の成見にたのんで、顔面を平手で殴ってもらった。
 
 その裏チームは二点を奪いサヨナラ逆転で勝利した。
終了の挨拶に集合するためベンチを飛び出そうとした越智は倒れた。
苦しげに天を仰ぎ、意識を失っていた。
 関係者が彼の周りに駆けつけた。担架が運ばれた。
窒息しないように口の中に布きれが差し込まれた。数分後越智は意識
を回復した。
監督の前に走っていった。
「元気になりました」言って越智は神妙に頭を下げた。
上甲はおどけるように越智の首を抱え、頭をなで回した。
越智は号泣した。人目をはばかることもなく、夏のグランドで号泣した。

 第八十回全国高校野球愛媛大会最終日のことであった。この翌年宇和
島東は三年連続の県大会優勝を飾る。これは愛媛県では戦後初の
快挙であった。この試合があったからこそ三年連続という数字を積
み重ねる事が出来たのである。

先発ナイン


一番・一塁手宮崎(6打数5安打)  二番・セカンド(投手)成見


三番・レフト野中  四番・捕手丸石(主将)

 
五番・ライト西田  六番・ショート越智


七番・センター大星  八番・サード佐々木


九番・ピッチャー近平


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